
健康診断で受けた血液検査の結果をまじまじと見たことはありますか?専門家でない限り、正常か異常かぐらいしか確認することはまずないのではないでしょうか。
血液検査は、いわば身体の状態を知るバロメーターです。どんなことがわかるのか、今いちどご自身の「血液」について知っていきましょう。
血液検査とは
血液検査は、血液を調べることで今自分の身体に何が起こっているのかを知る検査です。
血液には酸素や栄養を運ぶ赤血球、免疫に関与する白血球、止血を助ける血小板など、多くの成分が含まれています。
さまざまな物質が含まれ、日々私たちの身体を守り、保っている血液。それら物質の濃度やバランスを調べることで、体の機能が正常かどうかを確認することができます。
採血の量って知っていますか?
血液検査の際、思っている以上に血を抜かれているような気になった方もいるかもしれません。見ているだけでは体内からの血液が何本もの試験管に分けられているので、「こんなに採血されて貧血にならないかな…」とか「帰りはしっかりお肉食べて血を増やそう!」とか感じそうです。
しかし実際の採血量は、大さじ一杯と少しぐらいとのこと。
検査内容によって異なりますが、一般的には数ミリリットルから最大でも20ミリリットル程度で、通常の健康診断や基本的な検査の場合には約5〜10ミリリットル程度が標準的とされています。
採血量は、体への影響が最小限となるように慎重に計算されており、健康な成人であれば日常生活に支障をきたすことはほとんどありません。
何本もの試験管に分ける理由
血液検査の際、採血された血は何本もの試験管に分けられます。
血液検査で採血した血液を複数の試験管に分けるのは、検査項目ごとに必要な条件が異なるためです。
たとえば、血球検査では抗凝固剤入りの試験管、生化学検査では血清を使用するため凝固剤のない試験管など、血液検査は検査の種類で試験管の中に入れる試薬が違います。
また、検査ごとに必要な血液量を確保するためでもあります。
血液検査でガンはわかる?
血液検査でがんがわかる、そんな時代になったのではないかな、と思ったことはありませんか?
ガンになると血液中にさまざまな物質が分泌されるため、血液や尿から物質を測定することが可能になります。
こういったがんによって体内で反応している物質を測定できるのが腫瘍マーカーと呼ばれる検査方法です。
このようにお伝えすると「では腫瘍マーカーでがんになっているのか判断できるのでは?」と思われる方もいるかもしれませんがそうではありません。
腫瘍マーカーはあくまでも補助的な検査であり、がんの疑いがある場合は他の精密検査を受ける必要があります。
とくに、ガンではとても大切な早期発見の段階において、残念ながら現段階の腫瘍マーカーでは反応がでないことが多いとされます。
また、ガンでなくても腫瘍マーカーが高くなる場合もあり、現状としてはがんの治療を行っている人に腫瘍マーカーが役立つと言えるでしょう。
健康診断の血液検査でわかること
血液検査では主に貧血、肝臓・腎臓の異常、高脂血症、糖尿病といった疾患の可能性を知ることができます。
ここからは、それぞれの基準値や、標準値を越したり下回ったりするとどんなことが疑われるのか、その可能性について詳しく解説していきます。
また、健康診断は受けるだけではなく、受けて結果を知ってからどう活かすかが大切です。これからどう健康的に過ごすか、ぜひこちらのコラムも合わせてお読みください。
肝臓系検査
血液検査の肝臓系検査では、肝臓の健康状態や機能に異常がないかを確認します。主に肝炎、脂肪肝、肝硬変、アルコール等の影響が判断され、早期の治療や生活改善につなげられます。
総タンパク
総蛋白(TP)は、血液中の全タンパク質の総量を測定します。主にアルブミンとグロブリンという2種類のタンパク質から成り、身体の働きに重要な働きをします。
低値の場合、栄養障害、ネフローゼ症候群などが疑われるとされ、 高値の場合、多発性骨髄腫や慢性炎症、脱水などが疑われるとされます。
異常値が見られた場合、単に肝臓の問題だけでなく、全身的な病気や脱水症状なども考えられるため、他の検査値(アルブミン/グロブリン比など)や症状と合わせて総合的に判断することが重要です。
アルブミン
アルブミンは血液中の主要なタンパク質です。アルブミンは、体内の水分を保つ浸透圧の調整や栄養素の運搬、薬物やホルモンの結合など重要な役割を担っています。
アルブミンが低い場合、肝臓障害、ネフローゼ症候群、栄養不良や消化吸収障害が疑われます。
アルブミンの高値は主に脱水症状が原因とされています。
AST(GOT)・ALT(GPT)
AST(GOT)は心臓、肝臓、筋肉などに存在する酵素です。ALT(GPT)はASTと同様に様々な器官で存在する酵素ではありますが、主に肝臓で存在しています。
ASTのみが高い場合は心筋梗塞、筋肉疾患などが疑われます。AST・ALT共に高い場合は急性肝炎・慢性肝炎など肝障害の可能性が高くなるとされます。
γ-GTP
γ-GTP(ガンマグルタミルトランスフェラーゼ)は、お酒好きさんにとって最も気になる値ではないでしょうか。
γ-GTPは主に肝臓や胆管の健康状態を評価するための値で、特にアルコールの影響で高値になりやすいとされます。
γ-GTPの値が高い場合、アルコールの過剰摂取が主な原因となることが多いとされますが、他にも脂肪肝、肝炎、胆石、胆管炎、さらには肝硬変や肝臓がんなどが疑われます。
腎臓系検査
腎臓は体内の老廃物や余分な水分を排出し、血液を浄化する臓器です。体内環境を一定に保てているかを血液検査にて確認します。
クレアチニン
クレアチニンは、筋肉内にあるクレアチンが代謝された後の老廃物です。主に腎臓を通じて尿中に排出されるため、血中クレアチニン濃度を測定することで腎臓が老廃物を適切に排出できているかを確認できます。
筋肉量でクレアチンそのものの量が変わるため、基準範囲は男女で違っています。
クレアチニン値が高い場合、腎機能の低下が疑われます。ただし筋肉量が多い場合や激しい運動後でも一時的に上昇することがあるので他の検査結果とともに判断されます。
eGFR(イージーエフアール)
eGFRはクレアチニン値を年齢、性別から補正して算出され、腎臓老廃物を排出する能力を調べます。
eGFRの数値が60未満になると腎機能低下、慢性腎臓病(CKD)が疑われるとされます。
尿酸
尿酸もビール好きのさんにとっては親しい間柄といった人も多いことでしょう。
尿酸は、タンパク質の一種であるプリン体が分解される際に生成される物質で、主に腎臓から尿中に排泄されます。
尿酸値の異常は、痛風や腎臓疾患、代謝異常の兆候となることがあります。
脂質系検査
脂質系検査は、血中の脂質バランスを調べ、動脈硬化や心血管疾患のリスクがないかを確認します。
HDLコレステロール
「善玉コレステロール」と呼ばれるもので、血管の脂質を回収し、動脈硬化を防ぐ働きを表します。HDLコレステロールが高いほど、動脈硬化の予防に有利とされています。
HDLが低い場合は、動脈硬化や心血管疾患のリスクが高まる可能性があります。
LDLコレステロール
「悪玉コレステロール」と呼ばれるもので、肝臓から全身の細胞へコレステロールを運ぶ役割があり、過剰な場合、血管の壁に蓄積し、動脈硬化を進行させる要因となるとされます。
LDLコレステロールが高いと、冠動脈疾患(心筋梗塞や狭心症)、脳梗塞などのリスクが増加する可能性が高いため注意が必要です。
高脂肪食、運動不足、喫煙といった日常での習慣を見直すことが大切とされます。
中性脂肪(トリグリセリド)
体内の中でもっとも多い脂肪で、体内のエネルギー源として利用されますが、過剰に蓄積されると健康リスクが高まるとされます。
中性脂肪の値が高いと、内臓脂肪の増加、動脈硬化の進行、心血管疾患、脳梗塞のリスクが高まるとされます。
高値の原因として、過剰なアルコール摂取、高脂肪・高糖質の食事、運動不足などがあるので心当たりのある方は生活改善をおすすめいたします。
non-HDLコレステロール
non-HDLコレステロールは、全ての動脈硬化を引き起こすコレステロールを表します。non-HDLコレステロールには、LDLコレステロールをはじめ、VLDL(超低密度リポタンパク質)やIDL(中間密度リポタンパク質)などを含み、動脈硬化のリスクを総合的に表した指標です。
non-HDLコレステロールが高いと、動脈硬化や心筋梗塞、脳卒中などのリスクが高まるとされます。ただし、遺伝的な脂質異常症も高値の要因になることも指摘されます。
糖代謝系検査
糖代謝系検査では、主に血糖値やインスリンの働きを調べ、糖尿病やその前段階である耐糖能異常のリスクがないかを確認します。
血糖値(FPG)
血液中のブドウ糖が適切にエネルギー源として使われているかを測定します。高数値の場合、糖尿病、すい臓がん、ホルモン異常などが疑われるとされます。
HbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)
ブドウ糖とヘモグロビンが結合したものをHbA1cと呼びます。血糖の過去1〜2ヶ月の長期の血糖が調整されているかを確認することができます。
血球系検査
血球系検査では、血液中の赤血球、白血球、血小板の数や状態を調べ、貧血、感染症、出血障害などの異常がないかを調べます。
赤血球
赤血球の結果は、主に貧血の有無やその原因、全体的な血液の健康状態を表します。
赤血球数が低い場合は貧血が疑われます。貧血は、酸素運搬能力が低下し、体の各部位に十分な酸素が供給されない状態です。鉄分不足、ビタミンB12や葉酸の不足などが考えられます。
赤血球数が高い場合、赤血球増加症(多血症)が疑われます。
血色素(ヘモグロビン)
ヘモグロビンは赤血球内で酸素を結びつけ、肺から体の各組織に酸素を供給する役割を担っています。低値の場合、鉄欠乏性貧血が疑われるとされます。
ヘマトクリット
血液中の赤血球の占める割合を示す指標で、全血液量に対する赤血球の容積比をパ0ーセントで表します。
ヘマトクリット値は、貧血や多血症、脱水状態などの診断に役立つ重要な値です。
MCV・MCH・MCHC
MCVとは赤血球の体積、MCHとは赤血球に含まれるヘモグロビン量、MCHCとは赤血球に対するヘモグロビン量の割合を表します。
この検査では、貧血の詳細な状態を診断することが可能です。
MCVが低値の場合、鉄欠乏性貧血や慢性疾患に伴う貧血が疑われ、高値の場合ビタミンB12や葉酸不足による巨赤芽球性貧血、アルコールの過剰摂取による影響が疑われます。
白血球
白血球は、感染症や異物から体を守る役割を持つ免疫細胞です。白血球数が正常範囲から外れると、感染症、炎症、免疫疾患、または血液疾患などが疑われます。
白血球数が増加している場合、体内で感染症や炎症が発生している可能性が疑われます。細菌感染、外傷、ストレス、アレルギー反応、急性炎症性疾患(例えば、虫垂炎)などが原因として挙げられます。
また、稀に白血病など重大な血液系疾患の場合も考えられるとされます。
白血球数が減少している場合、免疫力が低下している可能性が示唆されます。
たとえばウイルス感染症、自己免疫疾患、再生不良性貧血、薬剤(抗がん剤や抗てんかん薬など)による影響などが疑われます。
血小板数
血小板は、血管が損傷した際に血栓を形成し、出血を止める役割を果たします。血小板数が異常であると、出血や血栓のリスクが高まる可能性があります。
血小板数が増加している場合、炎症、感染症、出血後、手術後、鉄欠乏性貧血などで見られる一時的な増加が疑われます。
血小板数が減少している場合、止血能力が低下し、出血のリスクが高まっていることが疑われます。再生不良性貧血、肝硬変、特発性血小板減少性紫斑病などが疑われます。
感染症系検査について
一般的な健康診断において感染症系の血液検査は行われません。感染症について調べておきたい方は専門の医療機関で検査を受けるか、人間ドックのオプション検査を申し込むかで確認ができます。
CRP
CRPは、炎症や組織損傷が発生すると肝臓で産生され、血中濃度が上昇するタンパク質です。CRP値の変化は感染症、炎症性疾患、外傷、手術後の回復状況などを確認することができます。
CRPの値が高い場合、体内で炎症反応、すなわち細菌による感染症が起こっている可能性が示唆されます。稀に、検査前に風邪や胃腸炎にかかっていた場合、CRPの結果が高値となって出る場合もあります。
梅毒反応
梅毒は梅毒トレポネーマという細菌によって引き起こされる病気で、血液検査では主にトレポネーマ抗体検査と非トレポネーマ検査の2種類が行われます。
ただし陽性の検査結果であっても結核、膠原病など梅毒以外で陽性となる場合もあり、結果が陽性となった場合は精密検査が必要となります。
HBs抗原
HBs抗原の検査はB型肝炎ウイルス(HBV)への感染状態を確認するものです。HBs抗原は、HBVに感染した場合にウイルスの表面から産生されるタンパク質で、B型肝炎ウイルスに感染していないかどうかを調べます。
HCV抗原
HCV抗原検査は、C型肝炎ウイルス(HCV)への感染状況を調べます。体内にHCVウイルスが存在しているかどうかを確認し、急性や慢性のC型肝炎に感染していないかどうかを調べます。
身体のことをもっと知って健康に!
自分の身体のことなのに、会社などで実施される健康診断の結果は専門的すぎるため結果の確認だけで終わることがほとんどなはずです。
もちろん、健康状態を確認するだけでも自己意識は高まるのですが、自分自身を支えている血液の役割を知ると、もっと身体に対する思い入れは変わるのではないでしょうか。
今日もあなたを支える血液のため、何を食べてどう1日を過ごすのか。ぜひ身体の状態を「数値」から見返してみてくださいね。