記事公開日
最終更新日
コラボヘルスとは? 事業者健診の結果データ提供で実現する効果的な健康経営

企業の健康管理担当者にとって、従業員の健康保持・増進は重要な課題です。
しかし、事業者健診と特定健診のデータが別々に管理されていることで、効果的な保健事業の実施が難しいと感じていませんか?
そこで注目されているのが「コラボヘルス」という取り組みです。
事業者健診の結果データを保険者に提供することで、健康保険組合と企業が連携し、より効果的な健康施策を実現できます。
本記事では、コラボヘルスの基本概念から、事業者健診の結果データ提供の具体的な方法、導入による効果まで、総務部の健康管理担当者が知っておくべき情報を網羅的に解説します。
コラボヘルスとは?
コラボヘルスの定義と背景
「コラボヘルス」とは、企業(事業者)と健康保険組合(保険者)が積極的に連携し、従業員の健康増進に一体となって取り組む活動を指します。
従来、企業の実施する「事業者健診」と健康保険組合が実施する「特定健診」はそれぞれ独立して行われ、データも別々に管理されていました。
しかし、少子高齢化による医療費の増大、生活習慣病の増加、労働力人口の減少といった社会課題が深刻化する中で、個々の取り組みだけでは十分な成果を上げることが難しくなってきました。
そこで、厚生労働省が2013年に「日本再興戦略」の中でコラボヘルスを推進する方針を打ち出し、企業と保険者の連携による効率的かつ効果的な健康施策の実施が強く求められるようになりました。
なぜ今コラボヘルスが求められているのか
現代社会において、従業員の健康は企業の持続的な成長に不可欠な経営資源と認識されています。
従業員の健康状態が悪化すれば、生産性の低下、休職・離職の増加、医療費の増加といったリスクに直結します。
コラボヘルスは、これらの課題に対し、企業と保険者がそれぞれの持つ情報やノウハウ、資源を共有・活用することで、よりきめ細やかで効果的な健康支援を可能にします。
たとえば、事業者健診データと特定健診データを統合・分析することで、従業員一人ひとりの健康リスクをより正確に把握し、個別の保健指導や健康プログラムを最適化できるようになります。
健康経営におけるコラボヘルスの位置づけ
コラボヘルスは、企業の経営戦略として従業員の健康維持・増進に取り組む「健康経営」を推進する上で、極めて重要な要素です。
健康経営優良法人認定制度においても、企業と保険者の連携は評価項目の一つとされており、コラボヘルスの実践は認定取得に向けた重要なステップとなります。
単に健診を実施するだけでなく、その結果を健康保険組合と共有し、共同で具体的な健康課題の解決に取り組むことで、より戦略的かつ実効性の高い健康経営を実現できます。
これにより、従業員の健康意識向上、生活習慣病の重症化予防、メンタルヘルス対策の強化など、多岐にわたる効果が期待されます。
事業者健診と特定健診の違いとデータ連携の課題
事業者健診と特定健診の目的と実施主体
従業員の健康診断には、主に「事業者健診」と「特定健診」の2種類があります。
- 事業者健診:労働安全衛生法に基づき、企業(事業者)が従業員に対して実施する健康診断です。労働者の健康確保と疾病の早期発見・治療を目的としており、雇入れ時健診、定期健康診断、特殊健康診断などがあります。
- 特定健診(特定健康診査):高齢者の医療の確保に関する法律に基づき、健康保険組合などの医療保険者(保険者)が40歳以上の被保険者・被扶養者に対して実施する健康診査です。生活習慣病の予防・早期発見に重点を置き、メタボリックシンドロームに着目した検査項目が特徴です。
データが分散することによる課題
これまで、事業者健診と特定健診のデータは、それぞれ企業と健康保険組合で別々に管理されていました。
このデータ分散は、以下のような課題を生み出していました。
- 全体像の把握の困難さ:従業員個人の健康状態や企業全体の健康課題を包括的に把握することが難しく、効果的な健康施策の立案を妨げていました。
- 重複投資と非効率性:企業と保険者がそれぞれ独自に保健事業を計画・実施するため、内容が重複したり、資源が効率的に活用されなかったりするケースがありました。
- 効果測定の難しさ:施策の効果を多角的に評価するためのデータが不足し、PDCAサイクルを回しにくい状況でした。
- 個別のフォローアップの限界:特定の健康リスクを持つ従業員に対し、企業と保険者が連携してきめ細やかなフォローアップを行うことが困難でした。
データ連携が進まない理由
データ連携の重要性は認識されつつも、その進捗は必ずしもスムーズではありませんでした。
主な理由としては、以下の点が挙げられます。
- 個人情報保護の懸念:従業員の機微な個人情報である健診データを共有することに対する法的な制約やプライバシー保護への懸念が大きく、慎重な対応が求められました。
- システム・フォーマットの相違:企業と健康保険組合で利用している健診システムやデータフォーマットが異なるため、技術的な連携が困難でした。
- 連携の法的・制度的課題:どのような形でデータを共有すれば法的に問題ないのか、具体的なガイドラインが不明確な時期がありました。
- 企業・保険者双方の意識:連携のメリットや具体的な進め方についての理解が不足していたり、担当者の業務負担増への懸念があったりすることも要因でした。
事業者健診の結果データ提供とは
データ提供の法的根拠と仕組み
事業者健診の結果データを健康保険組合へ提供する取り組みは、「高齢者の医療の確保に関する法律」に基づいて行われます。
高齢者の医療の確保に関する法律の第27条第3項では、「保険者は、特定健康診査等の適切かつ有効な実施を図るため、加入者を使用している事業者等(厚生労働省令で定める者を含む。以下この項及び次項において同じ。)又は使用していた事業者等に対し、厚生労働省令で定めるところにより、労働安全衛生法その他の法令に基づき当該事業者等が保存している当該加入者に係る健康診断に関する記録の写しその他これに準ずるものとして厚生労働省令で定めるものを提供するよう求めることができる。」と定められています。また、同条第4項では、「前三項の規定により、特定健康診査若しくは特定保健指導に関する記録、第百二十五条第一項に規定する健康診査若しくは保健指導に関する記録又は労働安全衛生法その他の法令に基づき保存している健康診断に関する記録の写しの提供を求められた他の保険者、後期高齢者医療広域連合又は事業者等は、厚生労働省令で定めるところにより、当該記録の写しを提供しなければならない。」と定められているため、労働安全衛生法などの法令に基づき保存している健康診断の結果に関しては、保険者から提供を求められた場合は事業者は応じなければなりません。
高齢者の医療の確保に関する法律(第27条 第3項・第4項) | e-Gov 法令検索
提供するデータの範囲と項目
提供されるデータの範囲は、労働安全衛生法および労働安全衛生規則に基づく項目となります。
基本的には以下の項目です。
- 基本情報:氏名、生年月日、性別、被保険者番号など
- 健診結果:身長、体重、腹囲、BMI、血圧、脂質検査(HDL-C、LDL-C、TG)、血糖検査(空腹時血糖、HbA1c)、肝機能検査(AST、ALT、γ-GTP)、尿検査(蛋白、糖)、医師の診断結果、保健指導判定区分など
- 問診票情報:喫煙習慣、飲酒習慣、運動習慣、食習慣などの生活習慣に関する情報
これらのデータは、特定健診で実施する項目と重複する項目で、その後に実施される特定保健指導に活用されます。
データ提供の流れとプロセス
事業者健診の結果データ提供は、一般的に以下のプロセスで進められます。
- 従業員への周知:前述の通り、本人の個別同意は不要ですが、「あらかじめ公表(周知)しておくこと」が個人情報保護法上の適切な対応となります。社内規定(個人情報保護規定など)への記載や、社内ポータルサイト・掲示板などへの掲示を行い、「高齢者の医療の確保に関する法律に基づく項目の健診データを、特定保健指導等の実施を目的に健康保険組合に提供する」旨を事前に周知しましょう。
- データ抽出:企業は健診機関から提供されたデータから、該当する項目の健診データを抽出します。
- 覚書の締結:企業と健康保険組合の間で、データの提供範囲、利用目的、管理責任、セキュリティ対策などに関する覚書を締結します。
- データ提供:抽出されたデータを、安全な方法(専用回線、暗号化された媒体など)で健康保険組合に提供します。
- データ活用:健康保険組合は提供されたデータを既存の特定健診データと統合し、分析を通じて従業員の健康課題を特定し、効果的な保健事業の企画・実施に活用します。
コラボヘルス実施によるメリット
企業側のメリット
コラボヘルスの実施は、企業にとって多岐にわたるメリットをもたらします。
- 従業員の健康増進と生産性向上:企業と保険者が連携することで、従業員一人ひとりの健康リスクに応じたきめ細やかなサポートが可能となり、健康状態の改善が期待できます。結果として、従業員のモチベーション向上、集中力アップ、欠勤率の低下など、生産性の向上に繋がります。
- 医療費の抑制:生活習慣病の重症化予防や早期発見・早期治療が進むことで、将来的な医療費の増加を抑制する効果が期待できます。これは、企業の社会保険料負担の適正化にも寄与します。
- 健康経営の推進と企業イメージ向上:コラボヘルスは健康経営の具体的な実践であり、健康経営優良法人認定取得への重要な要素となります。これにより、企業のブランドイメージ向上、優秀な人材の確保・定着にも繋がります。
- 保健事業の効率化:健康保険組合との連携により、重複する保健事業を避け、より効率的かつ効果的な施策を展開できるようになります。
保険者(健康保険組合)側のメリット
健康保険組合にとっても、コラボヘルスは保健事業の質を高める上で不可欠な取り組みです。
- 保健事業の効率化・効果向上:事業者健診データと特定健診データを統合することで、被保険者全体の健康課題をより正確に把握し、データに基づいた効果的な保健事業(特定保健指導、健康イベントなど)を企画・実施できます。
- 医療費の適正化:生活習慣病の重症化予防や発症予防につながる施策を強化できるため、中長期的な医療費の適正化に貢献します。
- PDCAサイクルの確立:統合されたデータに基づいて施策の効果を客観的に評価し、次の施策に反映させるPDCAサイクルを確立しやすくなります。
- 加入者満足度の向上:企業と連携した手厚い健康サポートを提供することで、被保険者である従業員の健康意識を高め、満足度向上につながります。
従業員にとってのメリット
最終的に、コラボヘルスの恩恵を最も受けるのは従業員自身です。
- よりパーソナルな健康サポート:企業と保険者が連携することで、自身の健康状態やリスクに応じた、よりきめ細やかな保健指導や健康プログラムを受けられる機会が増えます。
- 病気の早期発見・早期治療:データ連携により、潜在的な健康リスクが見過ごされにくくなり、病気の早期発見・早期治療に繋がりやすくなります。
- 健康意識の向上:企業と保険者からの継続的な健康情報提供や支援により、自身の健康に対する意識が高まり、主体的な健康行動を促します。
- 安心して働ける環境:企業が従業員の健康を真剣に考えている姿勢は、従業員のエンゲージメントを高め、安心して長く働ける職場環境の醸成に貢献します。
まとめ
コラボヘルスは、企業と健康保険組合が手を取り合い、従業員の健康増進を戦略的に推進するための強力な枠組みです。
事業者健診の結果データを保険者に提供することで、これまで分散していた健康情報を統合し、データに基づいた効率的かつ効果的な健康施策を実現します。
この取り組みは、従業員の健康増進、生産性向上、医療費抑制、企業イメージ向上といった企業側のメリットはもちろん、保険者の保健事業の効率化、そして何よりも従業員自身の健康的な生活の実現に大きく貢献します。
総務部の健康管理担当者の皆様には、ぜひこのコラボヘルスの概念を理解し、貴社における健康経営推進の一環として、健康保険組合との連携を積極的に検討されることをおすすめします。
従業員の「健康」という共通の目標に向かって、企業と保険者が一体となることで、持続可能な社会と企業の発展につながるでしょう。

