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特定業務従事者の健康診断とは?義務となる対象業務と実施頻度の特徴を解説!

「特定業務従事者の健康診断」とは、深夜業や重激な作業など、特定の危険・有害な業務に常時従事する労働者に対して、事業者が法的に実施を義務付けられている健康診断のことです。
一般の定期健康診断とは異なり、その実施頻度や対象となる業務が厳格に定められている点に大きな特徴があります。
この記事では、総務担当者様が迷うことなく特定業務従事者の健康診断を運用できるよう、対象となる業務の具体例、一般健診との検査項目の違い、法で定められた実施の義務と頻度といった特定業務従事者の健康診断の特徴をわかりやすく解説いたします。
特定業務従事者の健康診断とは?
特定業務従事者の健康診断の目的
特定業務従事者の健康診断の主な目的は、特定の有害な業務(深夜業や重激な業務など)に常時従事する労働者の健康リスクを早期に発見し、それによる健康障害を未然に防止することにあります。
通常の業務よりも心身に大きな負担がかかる可能性があるため、法律(労働安全衛生法第66条)に基づき、一般の定期健診よりも高い頻度で実施が義務付けられています。
特定業務従事者の健康診断の特徴
特定業務従事者健康診断の最大の特徴は、実施頻度と実施のタイミングにあります。
- 実施頻度:原則として6ヵ月以内ごとに1回、定期的に実施する義務があります。
- 実施のタイミング:定期実施に加え、労働者を特定業務に配置替えする際にも、直ちに実施することが義務付けられています。
この健診は、特定の有害物質を扱う「特殊健康診断」とは異なり、「一般健康診断」の一種として分類されます。
一般の定期健康診断との違い
特定業務従事者の健康診断と一般の定期健康診断は、検査項目はほぼ同じですが、「実施頻度」に大きな違いがあります。
| 項目 | 特定業務従事者の健康診断 | 一般の定期健康診断 |
|---|---|---|
| 対象者 | 特定業務に常時従事する労働者 | 常時使用する労働者(特定業務従事者を除く) |
| 実施頻度 | 6ヶ月以内ごとに1回(配置替えの際にも実施) | 1年以内ごとに1回 |
| 検査項目 | 定期健康診断と同じ | 法定11項目(年齢により省略項目あり) |
| 法的位置づけ | 一般健康診断に分類 | 一般健康診断に分類 |
特定業務従事者健診の検査項目と特徴
原則として「定期健康診断」と同じ検査項目
特定業務従事者の健康診断の検査項目は、原則として定期健康診断と同じ法定の11項目が定められています。
- 既往歴および業務歴の調査
- 自覚症状および他覚症状の有無の検査
- 身長、体重、腹囲、視力および聴力の検査
- 胸部X線検査および喀痰検査
- 血圧の測定
- 貧血検査(血色素量、赤血球数)
- 肝機能検査(GOT、GPT、γ-GTP)
- 血中脂質検査(LDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪)
- 血糖検査(空腹時血糖またはHbA1c)
- 尿検査(尿中の糖、蛋白の有無)
- 心電図検査
医師の判断による検査項目の一部の省略規定
特定業務従事者健診では、検査項目の一部を省略できる規定があります。
ただし、省略できるのは35歳未満と36歳から39歳の労働者で、かつ、医師が必要ないと認めた場合に限ります。
(法令に基づく血液検査や心電図検査の省略の判断は、「個々の労働者ごとに、医師が省略可能であると認める場合においてのみ可能」とされており、医師以外の者が年齢などの基準により一律での省略の判断をすることは認められていませんので十分ご注意ください。 )
具体的には、以下の項目について、前回(6ヵ月以内)に検査を受けており、医師が必要でないと認めた場合に省略が可能です。
- 貧血検査
- 肝機能検査
- 血中脂質検査
- 血糖検査
- 心電図検査
特に胸部X線検査については、特定業務従事者であっても、1年に1回定期的に行えば良いとされています。
(胸部X線検査だけは、定期健康診断で受診している場合は、その半年後の特定業務従事者の健康診断では省略することができます。)
検査結果に基づく事後措置と健康管理
事業者は、特定業務従事者健康診断の結果に基づき、労働者の健康を確保するため、以下の措置を講じる義務があります。
医師等からの意見聴取
健診結果に異常所見があった場合、医師または歯科医師から、当該労働者の健康を保持するために必要な措置について意見を聞く必要があります。
適切な措置の実施
意見に基づき、作業環境の改善、作業の転換、労働時間の短縮など、適切な措置を講じなければなりません。
義務となる特定業務の具体例と対象者
労働安全衛生規則が定める特定業務の一覧
労働安全衛生規則第13条第1項第2号には、特定業務として以下の業務が定められています。
| No. | 特定業務の例 | 具体的な作業例 |
|---|---|---|
| 1 | 深夜業を含む業務 | 22時~翌日5時の間に業務を行うこと |
| 2 | 多量の高熱物体を取り扱う業務、著しく暑熱な場所の業務 | 溶融物取り扱い、炉前作業など |
| 3 | 多量の低温物体を取り扱う業務、著しく寒冷な場所の業務 | 冷凍倉庫内での作業、液体空気の取り扱いなど |
| 4 | ラジウム放射線、X線その他の有害放射線にさらされる業務 | 放射線装置を用いる医療・検査業務など |
| 5 | 土石、獣毛等のじんあいまたは粉末を著しく飛散する場所の業務 | 研磨作業、粉砕作業など |
| 6 | 異常気圧下における業務 | 潜水作業、高圧・低圧の室内作業など |
| 7 | 削岩機、鋲打機等の使用による、身体に著しい振動を与える業務 | 削岩機、チェーンソーなどの手持ち振動工具を使用する業務 |
| 8 | 重量物の取扱い等重激な業務 | 継続的に相当な重量を取り扱う作業 |
※上記以外にも、ボイラーの取扱いの業務、特定有害物を取扱う業務など、全13種類の特定業務が定められています。
「常時従事する労働者」の定義と配置替え時の健診義務
特定業務従事者健診の対象となるのは、「特定業務に常時従事する労働者」です。
「常時従事」とは、その業務を主たる業務として継続的に行っている場合を指します。短時間の従事や一時的な応援要員などは含まれません。
事業者は、対象となる労働者を特定業務に配置替えする際には、その直前または直後に、この健康診断を実施しなければなりません。
これは、業務による健康への影響を配置替えの初期段階で把握し、対策を講じるためです。
派遣社員の場合の実施義務はどこにあるか
派遣労働者が特定業務に従事する場合、特定業務従事者健康診断を実施する義務は、派遣元の派遣会社にあります。
これは、労働安全衛生法において、労働者と労働契約を結んでいる事業者が健康診断の実施義務者と定められているためです。
総務担当者様は、派遣元企業と連携し、健診の実施状況を適切に確認する必要があります。
まとめ
特定業務従事者の健康診断は、深夜業や重激な作業など、労働者の健康に大きな影響を与える可能性のある業務から、従業員を守るために法的に義務付けられた重要な措置です。
実施頻度は原則6ヵ月以内ごとに1回であり、一般の定期健診(年1回)よりも高頻度です。
配置替えの際にも健診を実施する義務があります。
検査項目は原則として定期健診と同じです。
総務部のご担当者様は、自社に該当する特定業務や「常時従事する労働者」の定義を正しく理解し、法令遵守と従業員の健康管理のため、漏れなく健診を実施することが求められます。
