記事公開日
最終更新日
巡回健診に向いている企業・事業所の特徴とは?

近年、従業員の健康管理への関心が高まる中、事業者健診(法定健診)の実施方法として「巡回健診」を検討される企業様も多いのではないでしょうか。
しかし、「自社に巡回健診は合っているのだろうか?」「どのような企業が巡回健診を導入しているのだろう?」といった疑問をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
この記事では、「巡回健診に向いている企業・事業所の特徴」を解説します。
自社に最適な健診方法を選ぶためのヒントとして、ぜひご活用ください。
巡回健診とは?その基本を理解しよう
巡回健診とは、企業や事業所の敷地内に健診バス(車内でレントゲン撮影ができる車両)や医療スタッフが訪問し、従業員が普段働く場所で健康診断を受診できるサービスです。
従業員が医療機関へ移動する手間を省き、効率的に定期健康診断を実施できるため、多くの企業で導入が進んでいます。
巡回健診と施設健診の違い
企業で実施する健康診断の実施方法には、主に「巡回健診」と「施設健診」の2種類があります。
両者にはそれぞれ特徴があり、自社の状況や従業員のニーズに合わせて選択することが重要です。
施設健診
健診センターや医療機関などの施設に受診者が出向いて健康診断を受ける方法です。
巡回健診
健診機関が健診バスなどの特殊車両と医療スタッフを事業所や指定場所に派遣し、その場で健康診断を実施する方法です。
施設健診は、最新の医療機器を用いた精密な検査が可能な反面、従業員一人ひとりが自分で予約し、医療機関まで移動する必要があります。
一方、巡回健診は、従業員の移動負担や時間的拘束が少ない点が大きなメリットです。
巡回健診の主なメリットとデメリット
巡回健診の主なメリット
■従業員の受診率向上
事業所内で受診できるため、従業員は移動時間や交通費を気にせず、気軽に受診しやすくなります。
また、勤務時間内に受診ができるメリットもあります。
これにより、健康診断の受診率向上に大きく貢献します。
■業務効率の維持
従業員が個別に医療機関へ行く必要がないため、移動時間や待ち時間による業務中断を最小限に抑えられます。結果として、企業全体の生産性低下を防ぐことができます。
■健康経営の推進
企業が従業員の健康管理に積極的に取り組む姿勢を示すことができ、従業員のエンゲージメント向上や企業イメージの向上にもつながります。
■集団での効率的な実施
複数の従業員が一度に受診できるため、準備や受診管理などに関わる企業側(健康管理担当者様)の事務負担が軽減されます。
巡回健診の主なデメリット
■検査項目に限りがある場合
健診バスや限られたスペースでの実施となり、持ち込める検査機器が限定されるため、施設健診に比べて実施できる検査項目が限られる場合があります。(例えば、胃カメラやMRI、CTなどの精密検査は不可の場合が多い)
■事業所内の場所確保が必要
健診バスの駐車スペースや、問診や各検査を実施する会場として、事業所内で会議室などのスペースを確保する必要があります。
■日程調整の複雑さ
全従業員の受診を短期間で完了させるためには、綿密な日程調整が必要となる場合があります。
特にシフト制勤務の従業員が多い場合は、調整が複雑になることがあります。
健診実施日時を従業員が受診し易い日時になるよう健診機関と調整することも重要です。
■プライバシーへの配慮
集団での受診となるため、施設健診に比べ、プライバシーが確保しにくいと感じる従業員もいる可能性があります。
巡回健診に向いている企業・事業所の具体的な特徴
巡回健診は、企業や事業所が抱えるさまざまな課題を解決し、従業員の健康管理を効率的に行うための有効な手段です。
ここでは、具体的にどのような特徴を持つ企業や事業所が巡回健診の導入に適しているのかを詳しく解説します。
従業員数で見る巡回健診に向いている企業
企業の規模によって、巡回健診のメリットは異なります。
従業員数に応じた巡回健診の適性を見ていきましょう。
中小企業が巡回健診を導入するメリット
従業員数が比較的少ない中小企業にとって、巡回健診は非常に大きなメリットをもたらします。
限られた人事リソースで健診の手配を行う場合、個別に医療機関と調整する手間や、従業員がバラバラに受診することによる業務への影響は少なくありません。
巡回健診であれば、事業所内で一斉に健診を実施できるため、管理者の負担が大幅に軽減されます。
また、従業員全員が同じ日に受診することで、受診率の向上にも繋がりやすく、健康経営の第一歩としても効果的です。
大企業や複数拠点を持つ事業所が巡回健診を導入するメリット
従業員数が多い大企業や、複数の事業所や店舗を持つ企業にとっても、巡回健診は有効な選択肢です。
多数の従業員が個別に健診施設へ出向く場合、移動時間や交通費、業務中断による生産性の低下といったコストが膨大になります。
巡回健診を導入することで、各拠点での集団受診が可能となり、従業員の移動負担や業務への影響を最小限に抑えられます。
これにより、全社的な健診受診率の底上げや、拠点ごとの健康状態の把握がしやすくなるというメリットがあります。
立地や事業所の分散が巡回健診に適しているケース
事業所の立地条件や分散状況も、巡回健診の導入を検討する上で重要な要素です。
交通の便が悪い場所にある事業所
公共交通機関が発達していない、または最寄りの健診施設まで距離があるなど、交通の便が悪い場所にある事業所は巡回健診に非常に向いています。
従業員が健診のために遠方まで移動する手間や時間を省けるため、受診のハードルが大幅に下がります。
これにより、従業員の健診に対するモチベーションが向上し、結果として受診率の改善に繋がります。
複数の事業所や店舗を持つ企業
本社だけでなく、支店、工場、営業所、店舗など、複数の事業所が分散している企業は、巡回健診の恩恵を大きく受けられます。
各事業所の従業員がそれぞれ最寄りの健診施設を探して受診するよりも、巡回健診が各拠点を回ることで、全従業員に均一な健診機会を提供できます。
これにより、健診の管理業務が効率化され、企業全体の健康管理体制を強化することが可能です。
特定の業種で巡回健診が効果を発揮する理由
業種特有の働き方や環境が、巡回健診の適性を高める場合があります。
製造業や建設業など現場作業が多い企業
製造業や建設業のように、現場での作業が中心となる企業は、従業員が現場を長時間離れることが難しいという特性があります。
巡回健診であれば、事業所内の空きスペースや駐車場などで健診を実施できるため、業務中断を最小限に抑えながら受診が可能です。
(事業所内にスペースを確保できない場合は、近隣の貸し会議室や多目的ホールなどを利用する事業所もあります)
また、有機溶剤や特定化学物質を使用したり、粉じんや騒音などの業務に従事するなど、特定の環境下で働く従業員に対しては、特殊健診も巡回健診と合わせて実施できる場合があり、非常に効率的です。
シフト制勤務が多いサービス業や介護・医療施設
サービス業や医療・介護施設など、シフト制勤務が一般的で従業員全員が同じ時間に集まるのが難しい業種も、巡回健診が効果を発揮します。
施設内で複数の日程・時間帯に分けて健診を実施することで、従業員は自身のシフトに合わせて受診しやすくなります。
これにより、業務に支障をきたすことなく、従業員全員が健診を受けられる機会を提供することが可能になります。
また、近年では医療機関においても、従業員の健診に自施設の人員や機器を割くことが難しいなどの理由で、外部の巡回健診を利用するケースも増えています。
オフィス勤務中心でも受診率向上を目指す企業
オフィス勤務が中心の企業であっても、従業員が「いつでも行ける」と思ってしまい、結果的に健診受診を後回しにしてしまうケースは少なくありません。
巡回健診を導入すれば、オフィス内で健診が実施されるため、従業員は移動の手間なく、仕事の合間に気軽に受診できます。
また、1日もしくはある程度集中した日程で実施するので従業員への周知も徹底し易くなります。
これにより、受診忘れを防ぎ、企業全体の健診受診率を向上させる効果が期待できます。
巡回健診が解決できる企業の課題とニーズ
巡回健診は、多くの企業が抱える具体的な課題やニーズに応えることができます。
従業員の健診受診率向上を目指したい企業
労働安全衛生法により、企業には従業員に定期的に健康診断を受けさせる義務があります。
しかし、従業員の多忙や健診施設への移動の面倒さから、受診率が伸び悩む企業も少なくありません。
巡回健診は、従業員にとって受診のハードルを大幅に下げるため、健診受診率の向上に直接的に貢献します。
高い受診率は、従業員の健康維持だけでなく、企業の法令遵守という点でも重要です。
従業員の移動時間や業務中断を減らしたい企業
従業員が健診のために外部の医療機関へ出向く場合、移動時間や待ち時間、健診時間を含めると半日~1日程度の拘束時間発生し、業務が中断することがあります。
特に従業員数が多い企業では、その影響は甚大です。
巡回健診は、事業所内で健診が完結するため、従業員の移動時間をゼロにし、業務の中断も最小限に抑えることができます。
これにより、企業の生産性低下を防ぎ、人件費や交通費といった間接的なコスト削減にもつながります。
健康経営を推進し福利厚生を充実させたい企業
近年、従業員の健康を経営的な視点から捉え、戦略的に実践する「健康経営」が注目されています。
巡回健診は、従業員が健康診断を受けやすい環境を提供することで、従業員の健康意識向上を促し、企業が従業員の健康を大切にしているというメッセージを明確に伝えることができます。
これは、従業員のエンゲージメント向上や、優秀な人材の確保、企業イメージの向上といった福利厚生の充実にも繋がり、結果として企業の持続的な成長に寄与します。
巡回健診導入前に確認すべきポイントと健診機関の選び方
巡回健診の費用と予算の考え方
巡回健診の導入を検討する上で、まず重要となるのが費用と予算の把握です。
巡回健診の費用は、従業員数、実施する検査項目、オプション検査の有無、健診機関の出張費用などによって大きく変動します。
一般的に、基本的な定期健診に加え、生活習慣病健診や各種がん検診などのオプション検査を追加するほど費用は高くなります。
また、健診車両や医師・看護師の派遣にかかる費用も考慮に入れる必要があります。
予算を立てる際には、単に費用だけでなく、巡回健診によって得られる従業員の健康維持、生産性向上、福利厚生の充実といった長期的なメリットも考慮に入れることが重要です。
健康経営を推進する企業にとっては、健診費用は投資と捉えることもできます。
企業によっては、健康保険組合や自治体が提供する助成金や補助金制度を利用できる場合があります。
導入前に、自社が利用できる制度がないか確認することで、費用負担を軽減できる可能性があります。
例えば、
協会けんぽ加入の事業所であれば「生活習慣病予防健診」という制度があり、健診費用の一部を協会けんぽが負担してくれます。
生活習慣病予防健診のご案内/協会けんぽ
また、川口市では市内に事業所を有する中小企業を対象に「中小企業勤務者定期健康診断料補助金」という制度があり、1人あたり1,500円を上限に補助が受けられます。
中小企業勤労者定期健康診断料補助金/川口市ホームページ
健診機関選定のポイントと確認事項
サポート体制
健診の予約から実施、結果の管理まで、一貫したサポートがあるか。
検査項目
自社が義務付けられている検査項目に加え、オプションで受けたい項目に対応しているか。
受診者用の結果報告書とは別に、事業所用に健診結果の一覧表やデータでの提供してもらえるか、実施後に必要な書類・データを提供してもらえるか。
巡回健診実施における準備と注意点
実施場所の確保
健診バスなどの車両を駐車するスペース、問診や各検査を行う場所の確保が必要です。
事前に健診機関と相談し、最適なレイアウトを検討しましょう。
従業員への周知
健診日時や流れについて、事前に従業員に丁寧にアナウンスすることで、スムーズな実施につながります。
健診後のフォロー
健診結果の保管方法や、再検査が必要な従業員への対応フローを事前に決めておきましょう。
まとめ
巡回健診は、従業員の健康管理を効率化し、企業全体の生産性向上に貢献する有効な手段です。
特に、従業員数が多かったり、事業所が分散していたり、従業員の受診率向上に課題を抱えていたりする企業に強くおすすめできます。
この記事を参考に、自社の課題やニーズに合った健診方法を検討し、健康経営の第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。