飽食の国日本で栄養失調?メタボ気味でも栄養失調になる理由

食事をする女性





自分が栄養失調かもしれないと思った事はありますか?日本は飽食の国で、「栄養失調」とはほとんど関係のないように思えます。なぜ1日3食食べていても栄養失調になるのか、その理由と対策について、管理栄養士がお話します。

【栄養失調と新型栄養失調】

栄養失調とは、体に必要な栄養素やエネルギーを十分に摂取できていない事です。栄養失調になる原因は、食事の回数が少ない、ダイエットをしている、胃腸の病気による吸収不足、加齢による食欲不振などが挙げられます。

 

体重の減少や顔のやつれ、疲れやすい、貧血気味といった症状があれば、栄養失調のサインかもしれません。

それとは別に、現代人に多い新型栄養失調とは1日に必要なカロリーは足りているのにタンパク質やビタミン、ミネラルなどの特定の栄養素が足りていない状態を指します。知らず知らずのうちに新型栄養失調に陥らないように、栄養素の役割と摂り方についておさらいしていきましょう。

 

【栄養素の働きと、不足した時の症状】

私達の身体は食事をして食べ物を取り入れ、生命を維持しています。このことを「栄養」といい、それぞれの食べ物に含まれる栄養成分は「栄養素」と呼ばれます。口から入ってくる

栄養素は消化器官の働きで最小単位まで分解されて、小腸の粘膜から吸収されます。

 

体を作り、エネルギーを生み出す源は糖質、タンパク質、脂質の3つであり、3大栄養素と呼ばれています。ここに、3大栄養素がスムーズに働くためのサポートをしたり、骨や歯を作る働きをするビタミン、ミネラルを加えたものが5大栄養素と呼ばれるものです。それぞれの働きと、不足すると特に現れやすい症状をまとめました。

 

【必ずとりたい3大栄養素】

◎糖質

糖質は生命維持のために真っ先に使われる栄養素で、体温の維持や脳のエネルギー源としても使われます。糖質が不足すると代わりに体の中で脂質やタンパク質の分解が始まり、血糖値が下がって集中力が低下したり疲れやすくなるなどの症状が現れます。

 

糖質は厚生労働省の食事摂取基準では1日の60%を占めるエネルギー源です。お米やパン、うどんなどに含まれる為不足の心配はありませんが、ダイエットで食事の回数を1日1食にしているなど、食事を抜いている場合は不足する心配があります。

 

◎タンパク質

タンパク質は筋肉だけを作っていると考えられがちですが、実は違います。

 

骨、血液、皮膚、など体の多くの組織がタンパク質から作られています。タンパク質は20種類のアミノ酸から作られますが、そのうちの9種類のアミノ酸は体内で作る事が出来ないため、食事から摂取する必要があります(必須アミノ酸)。

 

近年話題になっている新型栄養失調でも、タンパク質不足が問題になっています。タンパク質が不足すると疲れやすくなり、気分が落ち込んだり睡眠の質が下がり免疫力が落ちてしまいます。

 

これらの理由から、タンパク質は健康維持に欠かせない栄養素です。また、髪はケラチンというタンパク質で作られているので、タンパク質が不足してケラチンが合成できなくなると抜け毛が増えるといった症状も現れます。肉、魚、大豆製品、卵など様々な食材を組み合わせて食べるようにしましょう。

 

◎脂質

人の体は60兆個の細胞で出来ていますが、その細胞1つ1つを覆う細胞膜の成分が脂質です。糖質よりも高いエネルギー源になる為、体温維持や血圧のコントロールなど、重要な働きをしています。ダイエットによりお肌のカサカサが気になる場合は油を極端にカットしていないか振り返ってみましょう。日本人は揚げ物やファストフードなど、摂りすぎている油で健康を損なう場合がありますが、それとは対象的に青魚などに含まれるn-3系の油は摂取不足が気になります。

 

次に、健康維持の為に特に不足させたくないビタミン、ミネラルと、不足する事で起こる症状をまとめました。

 

【ビタミン】

◎ビタミンB1

ビタミンB1は炭水化物をエネルギーとして利用する時に必要なビタミンです。肉や野菜を豊富に食べられなかった時代に国民病として知られた脚気はビタミンB1が不足して起こりました。

 

昔からお米を主食とする日本人はビタミンB1を大量に消費するので、不足しないように注意したい栄養素です。

 

ビタミンB1が不足すると糖質の代謝が滞り、体内に疲労物質が溜まりやすくなったり、イライラや集中力の低下を引き起こします。アルコールを分解する際にも使われるビタミンですので、ビタミンB1が多く含まれる豚肉や豆類を積極的に摂るようにしましょう。

 

◎ビタミンD

ビタミンDは聞きなれない栄養素かもしれませんが、血中のカルシウムの吸収を高める働きがあり骨の健康維持に欠かせません。ビタミンDが不足すると子どもの場合は骨の成長障害が起こり、脚の骨が曲がるくる病の原因になります。成人では骨軟化症や歯周病に、高齢者や閉経後の女性が欠乏すると骨粗しょう症の原因になります。

 

ビタミンDは魚介類やキノコ類に多く含まれますが、日光(紫外線)を浴びる事で皮膚から生成されるので毎日外に出て日光浴する事も大切です。

 

◎ビタミンE

ビタミンEは抗酸化力が高く、細胞の老化を遅らせる働きがあります。加えて、血中にあるコレステロールの酸化を防ぐ作用もあり、生活習慣病を予防する効果も期待できます。不足すると血行不良が起こり、女性の多くが悩みを抱える冷えや肩こり、生理痛の原因にもなります。ビタミンEは女性ホルモンや男性ホルモンの代謝にも関与しており、妊娠を望む女性にも必要な栄養素です。

 

ビタミンEはナッツ類やカボチャ、モロヘイヤなどに多く含まれます。

 

◎ビタミンC

ビタミンCはコラーゲンの生成に欠かせない栄養素で、細胞の結合を強くして皮膚や血管を丈夫に保つ働きがあります。強い抗酸化作用を持つため動脈硬化を予防したり、免疫力を強化してウイルスと戦う働きもします。また、人は精神的なストレスを感じる時や暑さ、寒さ、睡眠不足などのストレス時にも大量のビタミンCが消費されます。喫煙をする方も、日頃からビタミンCを摂る習慣を作りましょう。

 

ビタミンCは熱に弱いので生の野菜や果物からの摂取がオススメです。女性は鉄の吸収を高める為にも、意識的に摂るようにしましょう。

 

【ミネラル】

◎カルシウム

カルシウムは人の体に最も多く存在するミネラルで、体内にあるカルシウムの99%は骨や歯に存在します。残りの1%は血液や筋肉、神経内に含まれ精神安定の働きをしたり、筋肉の働きをサポートします。カルシウムが不足すると骨密度が低下し、骨折や骨粗鬆症の原因となります。

 

カルシウムは十分に摂れていない人が多く、努力して摂取する必要があります。干し海老や魚介類、乳製品に多く含まれます。

 

◎マグネシウム

マグネシウムはカルシウムと同様、日本人に不足しているミネラルです。カルシウムほど聞き馴染みが無いかもしれませんが、カルシウムとともに骨や歯の発育を促す重要なミネラルです。300種類以上の酵素の働きをサポートしたり、筋肉の動きをスムーズにし、血圧を正常に保つ役割もしています。マグネシウムが不足すると筋肉痛や体のだるさを引き起こします。さらに慢性的な不足が続くと不整脈や動脈硬化、心疾患のリスクが高まります。

 

マグネシウム不足の原因は、昔よりも精製された食物が増えた事が関係しています。精製されていない玄米を主食として食べていた時代にはマグネシウムが白米の5倍も含まれていたため、白米やパン食になった現代では不足が目立ちます。

 

できるだけ白米に雑穀を入れる、分づき米や全粒粉のパンを選ぶなどをするようにします。マグネシウムの不足は高血圧や糖尿病の一因となる可能性がありますので、豆類も意識して摂るようにしましょう。

 

◎カリウム

カリウムは摂りすぎた塩分(ナトリウム)を排出し、血圧を下げる作用があります。日本人は塩分摂取が多くなりがちなため、カリウムを意識してとる必要があります。

 

カリウムはゆでるなどの調理で8割以上が失われるため、効率良く摂取するには生で食べられる果物やサラダ、海藻類などがオススメです。

 

◎鉄

鉄は酸素を全身に運び、貧血を予防する重要な役割をしています。鉄分が不足するとめまいや倦怠感、食欲不振に繋がるとされています。妊娠期や授乳婦、月経のある女性は鉄を多く利用するので、貧血症状には特に注意が必要です。

 

鉄は元々吸収率が低いため、鉄が多く含まれるレバーやカツオ、アサリ、牛肉などの摂取頻度を増やすようにしましょう。

 

◎亜鉛

亜鉛は栄養素の中でも欠乏症が起こりやすいとされるミネラルです。細胞分裂を活発にさせて骨や皮膚の発育を促し、免疫力を高める作用があります。舌には味蕾という味を感じる細胞がありますが、亜鉛は味蕾の形成にも関係しているため不足すると味覚が鈍くなるといった症状が現れます。また、カップラーメンやレトルト食品に含まれる添加物は亜鉛の吸収を阻害する為、加工品を多く食べている家庭では子どもを含め、亜鉛不足に注意しましょう。

 

牡蠣にはダントツの亜鉛の含有量がありますが、それ意外の食品にはそれほど多くありません。レバーや卵を日常的に食べる他、亜鉛不足が気になる方はサプリメントを利用するのも1つの方法です。

【食物繊維】

食物繊維は肥満を防ぐだけでなく、便秘解消や生活習慣病の予防など、幅広い健康効果があります。しかしながら食物繊維もまた、日本人が不足しやすい栄養素です。

 

食物繊維は根菜類やイモ類、海藻類に多く含まれますが、毎日バランス良く食べられないをいう方は「今日はワカメを多く、明日はイモを多く食べよう」など、1週間単位で食べる食材を増やしてみましょう。

【メタボ気味でも栄養失調になっているかも】

メタボや肥満の原因の多くは食べ過ぎや運動不足によるものですが、日頃の食事を振り返ると先ほど紹介したタンパク質やビタミン、ミネラル、食物繊維の量が不足している事が原因でメタボが引き起こされる可能性があります。

 

時間の無い現代人はコンビニ食や外食ではおにぎり、パン、パスタなどの炭水化物中心の食事に偏りがちですので、少しでもタンパク質、ビタミン、ミネラルの含まれる食べ物を選ぶようにしましょう。

 

メタボを予防する外食での食べ方のポイントはこちらのコラムをご覧下さい。

日頃からの健康管理で理想の未来を手に入れよう!健康管理のポイントを解説します

女性の栄養失調の問題点

女性の社会進出も、栄養失調に繋がる痩せ増加の要因になっています。残業をすると夕食の時間が遅くなり、翌朝に食欲が沸かない為に朝食を欠食するということが起こりがちです。

 

悪循環が続くと1日に必要なエネルギーや栄養が摂れません。朝食抜きの生活では貧血や低体温が進み、貧血を放置した結果生理周期の不調が出たり、疲労感が抜けないといった「なんとなく不調」から抜け出せなくなってしまいます。

 

働く女性は3回の食事に加え、不足しがちな鉄やビタミン、ミネラルの摂れる栄養補助食品を賢く利用し、栄養失調を改善していきましょう。

 

アラフォー世代は栄養失調からの寝たきりを防ごう

健康寿命というキーワードを聞いた事はありますか?

 

日本人の平均寿命は男女共に世界一を誇りますが、実は寝たきりになる期間もそこに含まれています。寝たきりを予防する為には、中高年世代から栄養不足を補い適度な運動を心掛ける事が大切です。

 

【中高年から注意したいロコモ予防】

40~50代の働き盛り世代はメタボを心配しますよね?しかし、同時に将来の寝たきり予防もこの年代から意識し始めて早い事はありません。筋肉は何もしないと毎年0.5~1%ずつ落ちていきます。筋肉の元となるタンパク質が不足すると、自覚のないまま筋肉が衰えて、将来サルコペニアやフレイルに陥っていしまう危険性があります。

 

【サルコペニア】

加齢などにより、筋肉量が減少して全身の筋力が低下した状態をサルコペニアといいます。

最近では筋量だけでなく、筋力や歩行速度などの機能的な低下も診断に含まれます。

 

【ロコモティブシンドローム】

通称「ロコモ」と呼ばれます。骨格筋、骨、関節などの運動器の機能低下によって立つ、歩くなどの移動機能が低下した状態です。サルコペニアによって筋量が減少するため、サルコペニアはロコモの原因の1つと言えます。

 

◎ロコモ予防の栄養のポイント

年を重ねるとあっさりした物が食べたくなったり、同じ物ばかりを好む食嗜好に偏りがちです。肉には良質のタンパク質が含まれる為、シニア世代に入る前からしっかりと肉や魚を食べる習慣をつけましょう。

 

とは言え、肉の脂身ばかりでは良質なタンパク質を摂る事は出来ませんので鶏のささみや胸肉、牛や豚の赤身肉などを中心に食べるようにします。料理がおっくうな場合はツナや鯖の缶詰などを利用しましょう。

 

まとめ

いかがでしたか?

 

メタボ気味なのに栄養失調に陥っているなんて、想像もできないですよね。1日3食食べているから栄養は足りていると思いがちですが、栄養失調を予防するには不足しがちなタンパク質やビタミン、ミネラルにも気を配って、様々な食材から栄養を摂る事が大切です。そして、適度な運動を継続しましょう。

 

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執筆者プロフィール~日比野 真里奈~
管理栄養士/健康運動指導士

生活習慣病になる人を減らしたいという思いから管理栄養士を目指す。
病院や高齢者福祉施設で栄養指導や栄養ケアマネジメントの経験を積み、現在は離乳食、食育、
生活習慣病予防、女性の健康の分野で食事から健康をサポートする仕事に従事している。2児の母。