歳を重ねても自分らしく日常を楽しむために!健康寿命の伸ばし方

ゲートボールをする人達

健康寿命という言葉を聞いた事はありますか?

 

日本人が健康に過ごせる期間を終えた後の不健康とされる期間はここ数十年の間ほとんど変わっておらず、問題になっています。高齢者に多くみられる認知症や脳卒中などの病的な老化が進むと自立した生活が困難となり、介護を必要とする期間が長くなります。

 

自分らしく活動できる期間を伸ばして人生を楽しむ為に、健康寿命を短縮させない過ごし方について、管理栄養士が解説します。

 

健康寿命とは

日本人の平均寿命は世界で男女ともにトップクラスですが、諸外国より長寿であっても介護が必要な期間は長いという傾向があります。より重要になるのは生活の質(QOL)を良好に維持して行く事です。

 

そこで注目されているのが「健康寿命」です。健康寿命とは、心身ともに健やかで日常生活が制限されることなく過ごせる期間を指します。「健康」の状態については様々な考え方がありますが、現在日本が公表している「健康寿命」とは、「日常生活が制限されることなく生活できる」状態と定義され、厚生労働省による「国民生活基礎調査」の結果を使って3年ごとに算出されています。

 

健康寿命の男女差

男性の健康寿命は伸びている傾向にあります。それでも平均寿命と比べると8~9年の差があり、この差を縮めて行くことが課題となります。(平均寿命80.98歳 健康寿命72.14歳 2016年)

 

女性の平均寿命も年々延びています。女性は長寿者も多い一方で男性よりも筋力が弱いために身体機能がやADL(日常生活動作)が低下しやすいといった特徴があります。健康寿命は75歳近くまで延びていますが、女性は男性よりも介護期間が長い傾向があります。

 

健康寿命延伸プラン

健康寿命延伸を伸ばす事を目標とし、その目標を達成するための施策について定めたものが「健康寿命延伸プラン」(2019年策定)です。

この健康寿命延伸プランでは、2016年は男性72.14歳、女性74.79歳だった健康寿命を2040年までに男女ともに3年以上伸ばし、75歳以上とすることを目標としています。

このプランを達成する為に、

①健康無関心期も含めた予防・健康作りの推進(自然に健康になれる環境づくり)や

②地域・保険者間の格差の解消(行動変容を促す仕掛け)

を用いて、

Ⅰ:次世代を含めたすべての人の健やかな生活習慣形成等 

Ⅱ:疾病予防点・重症化予防 

Ⅲ:介護予防・フレイル対策、認知症予防

 

の3分野を中心に取り組みを推進して行く事とされています。

健康寿命を脅かす要因とは

要介護の状態になる前にはどんな予兆があるのでしょうか?

 

要介護の原因となるフレイルについて知識をつけて行きましょう。

 

フレイルとは

フレイルとは、かつては「老衰」などと呼ばれていました。もとはfrailtyという英語で、「可逆性がある(治療などでもとに戻せる)」という意味を持ちます。現在では「加齢によって心身の様々な機能が低下した要介護状態の前段階的な状態」を指し、次の3つの要素から成ると言われています。

 

〇身体的フレイル

筋力低下や体重減少、歩行速度の遅延など、体力的な問題

 

〇精神的フレイル

軽度の認知機能障害(認知症未満)など、心理的な問題

 

〇社会的フレイル

社会的な活動の不足から起こる孤独など、社会的な問題

 

社会的役割を終え、外出をしなくなることで認知機能も歩行機能も低下するなど、フレイルの3要素は互いに関連しています。これらが複雑に影響しあって発病・悪化するとされています。しかし、適切な予防と対策でフレイルは改善し、フレイルの前の状態に戻る事が可能です。

 

フレイルをチェックする方法

フレイルの判定方法は世界的な評価基準である「CHS基準」を元に診断や治療が行われるようになりましたが、日本では日本人高齢者の体力などを加味して作られた「J-CHS」で評価されます。評価項目としては、体重減少、筋力低下、疲労感、歩行速度、身体活動の5項目で判定されます。

 

健康寿命を伸ばす食事と運動のポイント

健康寿命を伸ばし寝たきりを予防する為には、中高年世代から栄養不足を補い適度な運動を心掛ける事が大切です。体を動かす事、食事をきちんと摂り、しっかり噛んで食べる事、社会との繋がりを持つ事を意識しましょう。

 

健康寿命を伸ばす食事のポイント

自分の口から食事を摂れるかどうかが大切な健康寿命のバロメーターになります。

高齢になると口腔機能の衰えから食事がとりにくくなりますので、加齢によって衰えやすい骨や筋肉の材料となる栄養素をきちんと食事から摂る事が大切です。

 

筋肉の衰えを予防する食事

〇タンパク質

年を重ねるとあっさりした物が食べたくなったり、同じ物ばかりを好む食嗜好に偏りがちです。筋力維持に必要なタンパク質が不足すると、運動機能が低下したりウイルスなどに対抗する免疫の働きが悪くなるのでしっかりと摂るようにしましょう。

 

肉には良質のタンパク質が含まれる為、シニア世代に入る前からしっかりと肉や魚を食べる習慣作りが大切です。とは言え、肉の脂身ばかりでは良質なタンパク質を摂る事は出来ませんので鶏のささみや胸肉、牛や豚の赤身肉などを中心に食べるようにします。料理がおっくうな場合でも、ツナや鯖の缶詰、卵などを利用して1日3食しっかりとタンパク質を摂りましょう。

 

シニア世代は若い頃よりも食事でとったタンパク質を筋肉につくり替える働きが低下するため、若い世代より多めの体重1㎏当たり1.2~1.5gのタンパク質が必要とされています。

 

骨を強くする食事

高齢になると骨粗鬆症により骨がもろくなり、転倒して骨折する事で寝たきりや要介護になるケースが極めて多いため、骨を強く保つ栄養も同時に必要になります。骨を作る材料にもタンパク質は必要ですが、その他にも、以下の栄養素を積極的に摂りましょう。

〇カルシウム

歯や骨を作り、正常に発達させる栄養素です。乳製品、豆類、緑黄色野菜や小魚に多く含まれます。

 

〇ビタミンD

カルシウムの吸収をサポートし、骨の形成や維持を助けます。キノコ類や鮭に多く含まれます。

 

〇ビタミンK

骨からカルシウムが排出されるのを防ぎ、骨を丈夫に保つ働きがあります。納豆や卵、ほうれん草に多く含まれます。

 

歯とお口の健康を維持しよう

〇噛む力は適正ですか?

噛む力が衰えると、硬いものを噛む事が辛く感じてきます。ファーストフードなどの軟らかい物を食べる事が当たり前になった現代人は、魚の干物や栗、雑穀を主に食べていた時代の食事に比べて噛む回数が1/6回程度になっているそうです。

 

普段から食べやすい軟らかいものばかりだと、噛む力や口周りの筋肉の衰えに繋がります。そうすると栄養が偏りがちになり、栄養不良のリスクが高まります。良く噛む事は脳への刺激になり認知症予防が期待できるとされ、食べ物の消化を助けて栄養の吸収も良くなるメリットがあります。

 

〇オーラルフレイルとは?

オーラルフレイルとは、日常敵に必要な噛む、飲み込む、話すといった口の機能が衰える事を指します。オーラルフレイルは心臓や脳などのトラブルよりも軽視されがちなため、口の機能に関する関心が低い事からスタートします。

 

食べ物を噛みにくいと感じる事があるけれど、そこまでの支障は無いので気にしないなど、いつもと違った感じを放置するとトラブルが起こり始めます。具体的には、と食べこぼしが増える、むせる、噛めない食べ物が増えるなどの事象が起こります。

口の機能が低下すると食べる機能が衰えてしまうのです。

 

健康な歯があっても、嚙み合わせが悪ければしっかり噛む事ができなくなります。加えて、噛む為の筋肉(咀嚼筋)や口まわりの表情(口輪筋)、食べ物を口の中に保つ唇や頬も、筋肉で出来ています。これらの筋肉が衰えると食べこぼしや滑舌が悪くなるなどの影響から、人の集まる会食の場に出向くのが億劫になるなど、社会との関わりが減る事も健康寿命を短くする原因として懸念されています。

 

食べ物を食べる事は生活の中の大きな喜びです。いつまでも心地良い環境でおいしく食べる為に、口のトラブルが起こり始めたら歯と口腔のケアをしていきましょう。

 

口が渇く、食欲が落ちた、噛み合わせが悪くなったなどの自覚症状がある場合は、歯科で相談してみましょう。かかりつけの歯科を持つ事も健康寿命の延伸には大切です。

 

◎舌を鍛える方法

舌をトレーニングする事で唾液の分泌を促し、滑舌を良くする効果が期待できます。

・舌まわし体操

口の中で舌をグルグル回します。

①舌を右に動かし、頬の内側を押したら舌をそのまま下に動かします

②次に舌を左に動かし、頬の内側を押します

③ぐるぐると舌で円を描くように右回り、左回りとそれぞれ10回ずつ行って下さい

 

・パタカラ体操

パ・タ・カ・ラと各発音5回を1セット、パタカラパタカラと連続した発音を5回行います。

食べる時に重要な唇と舌の力を効率よく鍛える事ができます。大きな声で、できるだけ早くはっきりと発音して下さい。

 

◎噛む力を鍛える方法

・ガムを噛む

ガムを噛む事により、噛むために必要な筋肉を鍛える事ができます。唇を閉じ、姿勢を正して左右均等に噛むようにしましょう。

 

・食材を噛めるように工夫する

食材は軟らかく小さい物を避け、しっかり噛む事ができるごはん作りにシフトして行きましょう。野菜は薄切りよりも乱切りにする、根菜やキノコ、ナッツなどの噛みごたえのある硬い食材を多く使うなどの工夫をするだけで噛む回数が増え、毎日の料理のバリエーションアップにも繋がります。

 

健康を保つ運動のポイント

日本では高齢者の8~10%がサルコペニア(低栄養や運動不足などで全身の筋肉量が低下するもの)とされ、深刻な身体機能の低下に繋がります。私たちの体を支え、動かす筋肉は20代をピークに衰え始め、40歳を超えると毎年0,5%ずつ減って行くと言われています。高齢者の場合、2週間寝たきりの状態で過ごすと7年分の筋肉を失う事になるのです。

 

骨や筋肉は40歳頃から衰え始めますが、運動器の衰えも健康寿命の長さを左右します。実際に、ゲートボールを定期的に行っているグループでは行っていないグループに比べ骨密度が高値を示しているという結果から、体調を管理した上で積極的な運動参加が勧められます。

 

40代や50代からは体の衰えを感じやすいと言われていますが、骨や筋肉はいくつになっても鍛える事が出来るので、「もう若くないから」「仕事で忙しいから」と悲観せず、出来る事から挑戦していきましょう。

 

【わっかテストをしてみよう】

①両手の親指と人さし指でわっかを作ります

②椅子に座り、できるだけ膝は直角にして利き足でないほうのふくらはぎの一番太い部分をわっかで軽く囲みます。

ふくらはぎが囲めない場合やちょうど囲める人は筋肉量を維持できていると考えられます。ふくらはぎと指の間に隙間ができる場合はサルコペニアの危険度が高いため、半年から1年に1回は定期的にわっかテストを取り入れて食事と運動で筋肉量を減らさない工夫を心がけましょう。

 

簡単にできるフレイル予防の為の運動

フレイルの予防には、歩行に繋がる下半身の筋肉と、体のバランスを保つ体幹の筋肉の2つが必要になります。40代、50代から始めておきたいトレーニングを3つご紹介します。

 

◎ウォーキング

ふくらはぎのトレーニングに有効です。無理にウォーキングの時間を作らなくても、買い物など、ふだんの外出時の移動も背筋を伸ばしてウォーキングを行ってみましょう。まっすぐ前を見て背筋を伸ばし、かかとから足をつき、つま先で地面を蹴ります。腕を後ろに大きく振ると、自然と歩幅が大きくなります。

 

◎スクワット

体を持ち上げ、立ち上がり、しゃがみ込む動作を繰り返すスクワットは、おしりとふとももの筋力を鍛えるトレーニングに最適です。両足を肩幅くらいに開き、いすに座るようにおしりをゆっくり下ろしたら元の姿勢にゆっくり戻ります。ぐらつきが心配な方は安定した椅子の背もたれを利用して行いましょう。足のつけ根の関節を使ってお尻を下ろすイメージで行います。

 

◎上体起こし

体幹の筋肉を鍛えるトレーニングです。あおむけになり、両ひざを立て、両手を頭の後ろで組みます。そのままおへそをのぞき込むように首をゆっくりと持ち上げ、肩が浮くくらいまで上半身を持ち上げます。お腹に力が入っている事を確認し、ゆっくりと元の姿勢に戻りましょう。ややきついと感じる所まで上半身を起こすのがポイントです。10回を目安に行いましょう。

 

運動はちょっと敷居が高いけれど、家事の合間や仕事の合間にできる事もあります。

基礎代謝を高めるちょっとした体の動かし方については、こちらのコラムをご覧下さい。

基礎代謝って何?日常生活の中から基礎代謝を上げる方法

 

まとめ

いかがでしたか?

健康寿命に必要な筋肉は、使わないと衰えてしまうものです。しかし、無理にしんどいと思う事をスタートするよりも、まずは楽しみながら好きな事に取り組む中で健康に繋がる工夫をスタートしてみてはいかがですか?

 

今自分が好きな活動や興味のある事を無理せず前向きに取り組みながら、健康寿命は自分の力で伸ばすという気持ちを大切に過ごしていきましょう。社員の健康管理については、ライフサポートサービス株式会社までお問い合わせ下さい。

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執筆者プロフィール~日比野 真里奈~
管理栄養士/健康運動指導士

生活習慣病になる人を減らしたいという思いから管理栄養士を目指す。
病院や高齢者福祉施設で栄養指導や栄養ケアマネジメントの経験を積み、現在は離乳食、食育、
生活習慣病予防、女性の健康の分野で食事から健康をサポートする仕事に従事している。2児の母。