長時間労働の対策ポイント!法定労働時間と残業代についてもわかりやすく解説します





終電間際まで仕事をするのが「できる」人!なんていうのは昔の話。長時間労働が美徳とされていた時代から、長時間労働は是正すべき悪癖として対策が求められています。

「働き方改革関連法」によって残業時間の上限が新たに定められ、罰則規定も設けられた今、長時間労働対策は全企業に求められます。

健康経営が人材定着の鍵となりますので、大原則である長時間労働是正について対策を具体化していきましょう。

 

どこからが長時間労働?

どれくらい長い時間働くと「長時間労働」とされるのでしょうか。

体感としての長時間労働には個人差がありますが、企業として把握しておくべきは「法律」の範囲です。

労働時間の上限について、理解をしていきましょう。

 法定労働時間

1日で労働できる時間の限度は、原則として「1日8時間かつ、1週40時間以内で1日以上の休日」と労働基準法で定められています。

この時間を越えて労働する場合、企業は従業員と「36協定」(後程解説します)を結び、法律で定められた範囲内での残業が可能となります。

因みに、労働時間が6時間を超える場合は45分以上の、8時間を超える場合は1時間以上の休憩が義務付けられています。

「36協定を結んでいるから休憩時間カット」とはなりません。

精神障害の発症と長時間労働について

長時間労働は肉体だけでなく心的にも強度なストレスとなり、精神障害発病のリスクを高めます。

さまざまな要因の下、超過労働が度重なる、心身へのリスク及び、労災に繋がる可能性が高まるのです。

精神障害の発症リスクが高まる長時間労働の基準としては、以下の3パターンがあります。

〇極度の長時間労働

発病直前の1か月で約160時間以上の時間外労働、3週間前に120時間以上の時間外労働

〇連続した長時間労働

発病前の3ヶ月連続で約100時間以上の時間外労働、発病前の2か月連続で約120時間以上の時間外労働

〇他の出来事と関連した時間外労働

出来事(例:転勤や移動)が発生した前や後に恒常的な長時間労働(月100時間程度の時間外労働)があった場合

(参考:厚生労働省「精神障害の労災認定」https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/rousaihoken04/dl/120215-01.pdf

「過労死ライン」について

健康に障害を引き起こすリスクが高まるレベルの長時間労働は「過労死ライン」と呼称されています。

過労死ラインの基準として、健康障害の発症前2〜6か月で1か月あたり約80時間以上、健康障害の発症前1か月で約100時間以上の時間外労働、とされます。

「過労死ライン」とありますので、実際に悲劇的な結末が起こる場合をそう呼称するように感じますが、そうではありません。

過労死等防止対策推進法第2条には「死亡には至らないが、これらの脳血管疾患・心臓疾患、精神障害」が「過労死等」と含まれています。

(参考:厚生労働省「過労死等防止対策」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000053725.html

大切な従業員だけでなく、従業員の家族を守るために、長時間労働は正しく対策される必要があるのです。

労災認定基準について

上記の「1か月80時間」の過労死ラインに到達していないから、たとえ過労で従業員が倒れたとしても労災認定されないはず!いえ、そうではありません。

令和3年より、厚生労働省は脳・心臓疾患の労災認定基準を改正、「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準」として「労働時間」と「労働時間以外の負荷要因」を総合評価し、労災認定することを明確化しています。

(参考:厚生労働省「脳・心臓疾患の労災認定基準の改正概要」https://www.mhlw.go.jp/content/11201000/000832041.pdf

これにより、月80時間に達しない時間外労働でも、休息時間や心理的負荷などが適切かどうかをふまえ、労災にあたるかどうかと判断されるようになりました

従業員の心身を守り長く働ける環境を整えるのは、長時間労働を是正するだけでは抜本的な対策となりません。

以下は職場環境の大切さをまとめていますので、こちらのコラムも合わせてお読みください

 

【働きやすい職場で人材の定着を目指す!職場環境改善を正しく遂行するポイント】

https://www.lifesupport-service.com/blog/20230120/

 

36協定

先述のとおり、労働基準法において法定労働時間が定められています。

その範囲を超える場合、企業は従業員と「36協定」を締結しなければなりません。

36協定では時間外労働を「1か月で45時間以内、1年で360時間以内」と上限が定められています。

特別条項付き36協定

企業側としては、繁忙期には36協定以上の残業がないと業務に支障が出てしまう、そのようなケースもあるでしょう。

その場合、労働者との合意の下、1か月においての労働時間の延長を認めています。これが、特別条項付き36協定です。 

これにより、企業側は年に6回まで、申請をすることで、1か月で45時間以内を超す長時間労働が可能となります。

もちろん、長時間労働には上限があります。

 

・時間外労働が年720時間以内

・時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満

・時間外労働と休日労働の合計について、2~6ヵ月平均が1ヵ月あたり80時間以内

上記いずれに違反した場合でも、罰則となりますので申請の際は注意をしましょう。

 

長時間労働の原因

長時間労働の対策に打って出る前に、なぜ長時間労働が是正されないのか、その背景について考察していきましょう。

人手不足

人手不足は様々な面で企業の体力を奪っていきます。少子高齢化の現在、ただでさえ労働人口が減っているにも関わらず業務量としては変わらない、ではそのしわ寄せは?となると長時間労働が解決策に繋がる場合があるでしょう。

しかし、悲劇的なことに、この長時間労働が原因でまた更なる人手不足となるリスクがあります。心身にストレスを溜め込み、従業員が戦力から離脱してしまうことは十分に考えられます。

少ない人材で業務を回せば回すほど、それが常態化してしまい、時間外労働が増える傾向にあるのです。

さらに、昨今はSNSで「実情」を配信できてしまいます。

その配信はデジタルタトゥーとして記録され、求人をかけても「長時間労働があるから応募しない」選択へと繋がりかねません。

社内風土

あなたにも「自分だけ先に帰宅するのは申し訳ない」という気持ちになった経験はありませんか?

これは、総合職を採用し配置転換しながら経験を積んでいく日本独自の「メンバーシップ型」雇用である影響が高いと考えられます。

海外で残業が起こりにくい、と耳にしますが、海外はその個人の仕事の範囲が明確化される「ジョブ型」での雇用であるため「自分の仕事が終わったら帰る」ことが前提となっています。(もちろん全てではありません)。

日本のように「個人の仕事」は終わっているけれど「チーム」としては業務が山積み、といった状況であれば、自分だけが先に帰宅するのが心苦しいと感じても不思議ではありません。

しかも上司や先輩が残業しているなか、なかなかメンタルが強くなければ定時で帰宅は難しいでしょう。

なおかつ「長時間労働」=「仕事を頑張っている人」というイメージの定着も問題です

事実、内閣府が平成26年度に行った「ワーク・ライフ・バランスに関する個人・企業調査報告書」では、労働時間が長い従業員ほど、残業をする上司に対して好意的な印象を持つ傾向が高いという結果が出ています。

(参考:厚生労働省「ワーク・ライフ・バランスに関する個人・企業調査報告書」

https://wwwa.cao.go.jp/wlb/research/wlb_h2511/9_insatsu.pdf)

 

この職場環境や社内風土そのものが、長時間労働を後押ししてしまっている可能性は高いのです。

ワークライフバランスの取り組みは、企業、従業員のどちらにも多くのメリットがあります。

ワークライフバランスについてはこちらをご覧ください。

ワークライフバランスの取り組みは企業にもメリットがいっぱい!正しく理解しましょう

残業代欲しさに残業する人も

某民間のサイトが行った調査によると、残業代がほしいために長時間労働を行う従業員も一定数いるとのことです。

企業は残業代を支払う義務がありますから、仕事の対価として残業代を支払います。しかしながら、実情としては正当な理由なくただ賃金目当てなのであるとすれば、企業としてコスト削減の対策に打って出るべきでしょう。

 

近年、上がらない賃金と物価上昇は大きな問題です。少しでも給料に反映をさせたいがために残業を選ぶ人が出てくることは、生活のためなのかも知れません。

企業としてはただ「会社にいる時間」を管理するだけでなく、どういった業務を行いどういった成果をあげているのか、その評価システムそのものを見直すことも長時間労働の対策として大切です。 

 

長時間労働の対策:残業代について

 

長時間労働と残業代との話が出たので、36協定についてここからは解説していきましょう。 

当然ですが、36協定を結んでいるからといって「残業代は支払わなくて良い」なんてことはあり得ません。

36協定は「長時間労働」に対するものであり、残業代の支払い義務は当然ながら発生します。

法定労働時間を超えた労働時間に対しては1.25倍以上の割り増し賃金を支払う義務が発生します。

60時間を超える残業代について

月60時間を超過した時間外労働の場合、1.5倍以上の割り増し率にした賃金の支払いが義務付けられています。 

たとえば、月に75時間の残業が発生したとしましょう。

この場合、75時間すべてが1.5倍の支払い対象となるのではなく、60時間までは1.25倍での計算となります。

すなわち、残りの15時間分が、1.5倍での支払い義務となります。

ここでもう1つ触れなければならないのが「深夜労働時間の割り増し賃金」です。

深夜とは「午後10時から午前5時」が定義とされています。深夜労働時間の割増賃金は1.25倍です。

この時間帯が月60時間以上の残業と重なった場合、支払は1.5 + 1.25で、合計1.75倍の支払い義務が発生します。

2023年3月で中小企業も法定割増賃金率の猶予措置が終了

上記の法定割増賃金率に関して、これまで中小企業は猶予措置を取られてきました。しかし、2023年3月を持ってこの猶予は終了、上記のとおりの割増率が適応されます。

ここで注意すべきは36協定です。

すでに従業員との間で36協定を締結されていたとしても、内容がアップデートされていないのであれば、改正労働基準法に対応する36協定を再度締結する必要があります。

従業員と結んだ36協定で割増賃金率に誤りがないかどうかを確かめ、法律違反となっていないかを見直すことも長時間労働の対策です。

36協定の留意点については厚生労働省の指針をよく読み、わからない部分は都道府県労働局や所管の労働基準監督署にて説明を受けることをおすすめいたします。

(参考:厚生労働省「36協定で定める時間外労働及び休日労働について留意すべき事項に関する指針」https://www.mhlw.go.jp/content/000350731.pdf

 

長時間労働の対策

長時間労働が常態化してしまうと、従業員の心身に多大なストレスを与える上に、企業側はなにかとコストがかかってしまいます。

長時間労働の対策を掲げ、生産性の上がる職場環境を整えていきましょう。長時間労働の対策で大切なポイントをお伝えします。

勤怠管理システムの導入

勤怠管理業務を「見える化」することが、長時間労働の対策になります。その残業が本当に必要な残業であったのか、残業をせずに業務効率をあげる打開策があるのか、など数値にすることで課題が見えてきます。

もちろん、勤怠管理の手間や集計ミスなども防げるため、生産性の向上、人件費の削減にも繋がります。初期導入コストこそかかりますが、最終的には生産性の向上へと繋がるでしょう

新しい制度への取り組み

フレックス制の導入やテレワークなど、自由に働くことができる選択肢を増やしていきましょう。

2016年の総務庁調査によると、日本人の平均的な通勤時間は片道40分。正直、時間がかかっているように感じませんよね。

しかし、通勤の前の身支度や家事、満員電車のストレスなどを考えると、この40分の有益な使い方がありそうに思えてきます。

 

疲れた体のままで人混みへ出て、通勤電車の中でさらなる疲労をためてしまっては、業務のパフォーマンスは落ちてしまいます。

できるだけ心身の負担が出ない働き方を提案できれば、長時間労働の対策になる上に、従業員の健康促進にも繋がっていくのです。

トップダウンで発信する

長時間労働を美徳としない姿勢を、経営陣自ら示すことが大切です。「残業」=「仕事のがんばり具合」となってしまうと、上司からの評価のために長時間労働を進めてしまう人が出てきてしまいます。

そういう従業員が続出すると、職場全体が「帰りたい、帰れない」雰囲気になるのです

また、有給休暇を取得しにくい風土があるというのも、日本でまだまだ多い現状です

「上司や同僚が有給休暇を取得しない。」「取得したら嫌味を言われる」と悩む人も少なくありません。

もしそのような風土があるなら、経営陣が積極的に変えていく必要があるでしょう。

 

 長時間労働の対策は上層部から発信し、すべての従業員を意識改革へと導いてください。

 

長時間労働の対策はトップダウンが効果的!

長時間労働の対策は、上層部がその姿勢を見せることで是正へと繋がります。

仕事が終われば帰宅して体を休め、心の癒える時間を設けること。これが心身ともに健康で、ワーク・ライフ・バランスの整った働き方へと繋がるのです。

全ての残業が悪ではなく、理にかなった残業以外は是正していけるように、トップダウンで対策を立てていってください。 

弊社には健康経営エキスパートアドバイザーが在籍しております。長時間労働の対策や、健康経営に関する具体策を一緒に考え、実行に移すことが可能です。

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