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事業者健診における安全配慮義務と自己保健義務とは?

事業者健診における安全配慮義務と自己保健義務:企業と労働者、それぞれが果たすべき義務とは?
企業に勤める方にとって、健康診断は身近なものですね。この事業者健診(法定健診)には、企業(事業者側)が負う「安全配慮義務」と、労働者自身が負う「自己保健義務」という2つの重要な義務が関係しています。これらは互いに関係し合いながら、労働者の健康を守るために機能しています。
今回は、事業者健診において企業と労働者がそれぞれどのような役割を果たすべきか、具体的に解説します。
1. 安全配慮義務とは?(企業が果たすべき義務)
安全配慮義務とは、企業が労働者の安全と健康を確保するために必要な配慮をする義務のことです。
安全配慮義務の法的根拠
- 労働契約法 第5条(労働者の安全への配慮) 「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」 この条文は、労働契約における使用者(企業)の一般的な安全配慮義務を定めています。労働者の健康管理もこの安全配慮義務に含まれると解釈されています。
- 労働安全衛生法 労働安全衛生法は、事業者が労働者の安全と健康を確保するために講ずべき措置を具体的に定めた法律です。事業者健診に関する企業の義務は、この法律に基づいています。
- 第66条(健康診断):事業者に労働者の健康診断実施を義務付けています。
- 第66条の4(保健指導等):健康診断の結果に基づく医師等による保健指導を努力義務として定めています。
- 第66条の8(面接指導):長時間労働者に対する医師による面接指導を義務付けています。
労働安全衛生法 第66条については、こちらの記事でも詳しく解説しています
労働安全衛生法第66条と労働安全衛生規則第43条・第44条の重要性 | ライフサポートサービス株式会社
事業者健診に関して、企業が具体的に行うべきことは以下の通りです。
健康診断の実施・費用負担
- 労働安全衛生法に基づき、定期健康診断を確実に実施し、その費用を負担する義務があります。
- 特定の業務に従事する労働者や深夜業に従事する労働者など、必要な場合には特殊健康診断も実施しなければなりません。
法定健診とは?一般的な健診との違いや項目を解説 | ライフサポートサービス株式会社
労働者の健康を守る!事業者が知るべき「特殊健康診断」の義務とは? | ライフサポートサービス株式会社
健診結果に基づく措置
- 健康診断の結果を医師が確認し、必要な場合には「就業上の措置に関する意見(就業制限や配置転換など)」を述べてもらう必要があります。
- 医師の意見を尊重し、労働者の健康状態に応じた適切な措置を講じる義務があります。
- 労働者の健康状態によっては、作業内容の変更、労働時間の短縮、休業などの措置を検討します。
医師等による保健指導
- 健康診断の結果、異常の所見があった労働者に対しては、医師や保健師による保健指導の機会を設けるよう努めなければなりません。
面接指導の実施
- 長時間労働により疲労が蓄積し、健康を害するおそれがある労働者に対しては、医師による面接指導を実施する義務があります。
- ストレスチェックの結果、高ストレスと判定された労働者で、申し出があった場合にも面接指導を実施します。
健康情報の適切な管理
- 労働者の健康情報は個人情報の中でも特に機微な情報であるため、プライバシー保護に最大限配慮し、厳重に管理しなければなりません。
2. 自己保健義務とは?(労働者が果たすべき義務)
一方、自己保健義務とは、労働者自身が自分の健康状態を把握し、健康の維持・増進に努める義務のことです。企業がどれだけ配慮しても、労働者自身の協力なしには健康を守ることはできません。
自己保健義務の法的根拠
- 労働安全衛生法 第3条(事業者等の責務) 「労働者は、労働災害を防止するため、必要な事項を守るほか、事業者その他の関係者が実施する労働災害の防止に関する措置に協力するように努めなければならない。」 直接的に「自己保健義務」という言葉が明記されているわけではありませんが、この条文は、労働者にも労働災害の防止に関する協力義務があることを示しており、健康管理についても同様に、労働者自身の協力が求められるという根拠となります。
- 労働契約における信義則(民法 第1条第2項) 「権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。」 労働契約は、使用者と労働者の間の信頼関係に基づいています。企業が安全配慮義務を果たす上で、労働者も自らの健康管理に努めることは、この信義則の観点からも期待される行動です。
事業者健診に関して、労働者が具体的に行うべきことは以下の通りです。
健康診断の受診
- 企業が実施する健康診断を指示通りに受診する義務があります。これは自身の健康状態を把握するための第一歩です。
健診結果の確認と活用
- 健康診断の結果をしっかりと確認し、自身の健康状態を把握することが重要です。
- もし異常の所見があった場合は、医師や保健師の指導を真摯に受け入れ、改善に努める必要があります。
健康に関する情報の申告
- 業務に関連する健康上の不安や変化がある場合は、企業や産業医、保健師に積極的に相談し、必要な情報を提供することが大切です。
生活習慣の改善
- 健康診断の結果や保健指導の内容を踏まえ、自身の生活習慣(食生活、運動、睡眠など)を見直し、改善に努めることが求められます。
専門医の受診
- 健康診断で精密検査が必要とされた場合は、速やかに医療機関を受診し、適切な治療を受ける必要があります。
3. 安全配慮義務と自己保健義務の相対関係
安全配慮義務と自己保健義務は、どちらか一方が重要というわけではなく、互いに協力し合うことで最大限の効果を発揮します。
- 企業が健康診断の機会を提供し、適切な措置を講じても、労働者が健診を受診しなかったり、結果を無視したりすれば、健康リスクは高まります。
- 逆に、労働者が自身の健康に気を配っていても、企業が適切な健康管理体制を構築していなければ、十分なサポートを受けられない可能性があります。
つまり、企業は労働者の健康を守るための「環境」を整え、労働者はその「環境」を最大限に活用し、自らも健康維持に努めるという、双方の協力関係が不可欠なのです。
まとめ
事業者健診(企業が実施する健康診断)は、単なる義務的なイベントではありません。企業の安全配慮義務と労働者の自己保健義務が相まって、労働者の健康を維持し、ひいては企業の持続的な発展にもつながる重要な取り組みです。
企業は法的な義務を果たすだけでなく、労働者の健康を尊重し、積極的にサポートする姿勢が求められます。同時に、労働者も自身の健康は自分自身で守るという意識を持ち、積極的に健康管理に取り組むことが大切です。
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