記事公開日
最終更新日
職場の健康診断後の「事後措置」はなぜ重要? 労働者の健康と企業の義務、理解しておくべきポイントを徹底解説

はじめに
職場で実施される健康診断は、労働者の健康状態を把握し、疾病の早期発見・早期治療に繋げるための重要な機会です。しかし、健康診断は「受けて終わり」ではありません。診断結果に基づいて適切な対応を行う「事後措置」こそが、労働者の健康維持増進、ひいては企業の安全衛生管理において極めて重要な意味を持ちます。
本記事では、労働安全衛生法および労働安全衛生規則に定められている職場の健康診断後の事後措置の必要性とその内容、さらに企業が理解しておくべきポイントについて詳しく解説します。
なぜ事後措置が必要なのか? – 法的義務と労働者の健康確保
労働安全衛生法では、企業(事業者)に対し、労働者の健康管理に関する様々な義務を課しています。健康診断の実施もその一つですが、診断結果を放置することは、労働者の健康リスクを高めるだけでなく、企業の法的義務違反にも繋がりかねません。
事業者が実施するべき健康診断についてはこちらの記事で解説しています
職場の健康診断に関する法律:労働安全衛生法第66条と労働安全衛生規則第43条・第44条の重要性
労働者の健康を守る!事業者が知るべき「特殊健康診断」の義務とは?
労働安全衛生法における企業の義務
労働安全衛生法第66条の4では、事業者は健康診断の結果に基づき、健康の保持に努める必要があるとされています。さらに、同法第66条の5~7および労働安全衛生規則第51条において、健康診断後の具体的な事後措置について定められています。
これらの規定は、単に「健康診断を実施する」だけでなく、「診断結果を踏まえて適切な措置を講じる」ことまでを企業に義務付けているのです。
労働者の健康確保と安全配慮義務
企業には、労働者が安全で健康に働けるよう配慮する「安全配慮義務」があります。健康診断の結果、何らかの異常が認められた労働者に対し、適切な事後措置を講じないことは、この安全配慮義務に違反する可能性があります。労働者の健康状態が悪化し、業務に支障が生じたり、最悪の場合、労働災害に繋がったりするリスクも考えられます。
事後措置を適切に行うことは、労働者の健康を守り、活き活きと働ける職場環境を維持するために不可欠です。
健診に関する事業者の「安全配慮義務」についてはこちらの記事でも解説しています
事業者健診における「安全配慮義務」と「自己保健義務」とは?
事後措置の具体的な内容と流れ
健康診断後の事後措置には、主に以下の内容が含まれます。
医師等からの意見聴取
労働安全衛生法第66条の4では、事業者は、健康診断の結果、異常の所見があると診断された労働者について、当該労働者の健康を保持するために必要な措置について、医師または歯科医師(以下「医師等」という)の意見を聴かなければならないと定められています。
この意見聴取は、健康診断実施後、遅滞なく行われる必要があります。
意見を踏まえた措置の検討・実施
医師等の意見を聴取した上で、事業者は以下の措置を検討し、必要に応じて実施する義務があります(労働安全衛生法第66条の5~7および労働安全衛生規則第51条)。
作業環境の改善
労働者の健康状態に影響を与えている可能性のある作業環境(例:騒音、粉じん、化学物質など)の見直しや改善。
作業の転換
現在の業務が労働者の健康状態に負担をかけている場合、負担の少ない部署への配置転換や、業務内容の変更。
労働時間の短縮
労働時間や残業時間の見直し、短時間勤務制度の導入など。
深夜業の回数の減少
深夜業に従事する労働者で健康上の問題がある場合、深夜業の回数を減らすなどの配慮。
就業場所の変更
労働者の通勤負担や職場環境が健康に影響を与えている場合、就業場所の変更。
健康管理のための助言・指導
労働者への生活習慣の改善、治療の勧奨、専門機関の紹介など。
健康診断結果の通知
労働者への健康診断結果の通知(労働安全衛生法第66条の6)。これは事後措置の前提として非常に重要です。
これらの措置は、労働者の健康状態や業務内容、職場の状況に応じて個別具体的に判断される必要があります。
保健指導の実施
労働安全衛生法第66条の7では、事業者は、健康診断の結果、特に健康の保持に努める必要があると認められる労働者に対し、保健指導を行うように努めなければならないとされています。これは努力義務ではありますが、労働者の健康増進のためには積極的に実施することが望ましいです。
企業が理解しておくべきポイント
健康診断後の事後措置を適切に進める上で、企業が特に理解しておくべきポイントをまとめました。
個人情報の適切な取扱いとプライバシー保護
健康診断の結果は、労働者の極めて機微な個人情報であり、「要配慮個人情報」に該当します。
事業者は、労働者の健康情報を適切に管理し、プライバシー保護に最大限配慮する必要があります。
目的外利用の禁止
健康診断結果は、労働者の健康管理以外の目的で利用してはなりません。
情報共有の制限
必要最小限の範囲での情報共有に留め、不必要な開示は厳禁です。
安全管理措置
健康診断結果を保管する際は、漏洩、滅失、毀損等が発生しないよう、適切な安全管理措置を講じる必要があります。
労働者への丁寧な説明と同意形成
事後措置を進める際には、必ず労働者本人に対し、健康状態や医師等の意見、講じられる措置の内容について丁寧に説明し、理解と協力を得ることが重要です。特に、作業の転換や労働時間の短縮など、就業上の措置を講じる際には、労働者の意向も尊重し、同意を得てから実施することが望ましいです。
産業医・保健師との連携強化
健康診断の事後措置は、産業医や保健師といった医療の専門スタッフの協力を得ながら進めることが非常に効果的です。彼らは、医学的見地から適切なアドバイスや指導を行うことができ、企業が適切な措置を講じる上で重要な役割を果たします。日頃から密に連携を取り、情報共有を行うことが大切です。
定期的な効果測定と見直し
講じた事後措置が本当に効果を上げているか、定期的に評価し、必要に応じて見直すことも重要です。労働者の健康状態の変化や、新たな健康課題の発生にも注意を払い、継続的な改善を図っていく必要があります。
記録の保管
健康診断の結果や、医師等からの意見、講じた措置の内容などは、労働安全衛生規則で定められた期間(概ね5年間)適切に保管しておく義務があります。これらの記録は、労働者の健康管理状況を把握する上で不可欠であり、万が一の際の証拠としても重要になります。
まとめ
職場の健康診断後の事後措置は、労働者の健康を守り、安全で快適な職場環境を維持するための企業の重要な責務です。単なる法的義務としてだけでなく、労働者の健康は企業の生産性や企業イメージにも直結する重要な経営資源であるとの認識を持ち、積極的に取り組むことが求められます。
特に、産業医や保健師の選任義務がない小規模事業者(従業員50人未満)にとって、健康診断後の事後措置は専門的な知識が必要となり、対応に悩むケースも少なくありません。
そのような場合に活用できるのが、全国に設置されている地域産業保健センターです。地域産業保健センターでは、小規模事業場の事業者やそこで働く従業員を対象に、健康診断結果についての医師からの意見聴取や、保健指導、健康管理に関する相談などを無料で行っています。
地域産業保健センターを上手に活用することで、専門家の支援を受けながら、適切な事後措置を講じることが可能になります。労働安全衛生に関する情報提供や研修も実施しているので、ぜひ活用を検討してみてください。
埼玉県内各地域の産業保健センターについては下記よりご確認いただけます
地域産業保健センター | 埼玉産業保健総合支援センター
本記事で解説したポイントを参考に、すべての企業が適切な事後措置を講じ、労働者が安心して健康に働き続けられる社会の実現に貢献できることを願っています。